慢性疼痛には主に3つの原因がある。薬や治療法は?

監修者
セルメディカルチームジャパン 編集部

 痛みは、けがや病気など、体の異変を警告する大切なサインで、通常は治療する過程で鎮まっていくものです。しかし治癒しても痛みだけが残る状態が長く続いたり、痛みの原因が不明だったりする場合があります。これが慢性疼痛です。

慢性疼痛がある人は、しばしば疲労を感じ、睡眠障害や食欲・性欲の減退、不眠や便秘などの症状が見られます。痛みが続くと、普段楽しんでいた活動ができなくなり、抑うつ状態になる可能性もあります。

日常生活にも支障をきたす慢性疼痛。その主な原因3つと治療法を中心に解説します。

1. 慢性疼痛とは?

 慢性疼痛は、数カ月から数年にわたって痛みが続いたり、再発を繰り返したりする痛みで、その痛みが広範囲で原因がはっきりしないのが特徴です。慢性疼痛を引き起こす病気は、筋骨格系やリウマチ疾患、線維筋痛症など、多種多様です。また、けがが神経線維や神経細胞を感作(“痛み刺激”に対する反応が敏感になること)する場合、たとえ軽いけがでも原因になることがあります。

 「日本における慢性疼痛保有者の実態調査-Pain in Japan 2010」(矢吹省司ら、2012)によると、国内で慢性疼痛を抱える人は推定で2315万人にのぼるとされています。

2. 慢性疼痛疾患管理料とは

 保険医療機関で、慢性疼痛にかかる疾患を主病とする患者(入院中の患者は除く)に対して、療養する上で必要な指導を行った場合に、月1回算定(130点)することができます。この慢性疼痛疾患管理料について、知っておいてほしい注意点がいくつかあります。

 まず算定する場合、その月に外来管理加算、消炎鎮痛処置、介達牽引は合わせて算定することができません。ただ、月の途中に慢性疼痛疾患管理料の対象となる疾患が発症したと診断され、慢性疼痛疾患管理料を初めて算定する月だけは違います。この場合、慢性疼痛疾患管理料を算定する前の外来管理加算や消炎鎮痛処置、介達牽引は算定できます。

例えば、次のようになります。〇が算定可能、×は算定不可能を表します。

来院した日

来院目的

行った処置

慢性疼痛疾患

管理料

消炎鎮痛処置

その他

12/1

急な腰痛

湿布

×

初診料

12/4

リハビリ

マッサージ

×

再診料

12/7

右膝の痛み

「変形性膝関節症」と診断

電気治療

×

再診料

12/10

リハビリ

電気治療

×

×

再診料

表のケースの場合、127日に「変形性膝関節症」と診断され、初めて慢性疼痛疾患管理料を算定しました。そのため、7日より前(1日と4日)は消炎鎮痛処置を算定できましたが、7日以降(10日)は算定せず、再診料だけ算定しています。

 受診した日数によって、慢性疼痛疾患管理料を算定した方がいい場合と算定しない方がいい場合があります。損をしないためにも計算してみた方がいいかもしれません。

3. 慢性疼痛治療ガイドラインができた背景

出典:gorynvd – stock.adobe.com

 同じ痛みでも、人によって感じ方はさまざまですよね。痛みは、主観的な感覚を表現するため、客観的な評価が難しいという面があります。また、その標準的な評価法や治療法が確立されていないので、十分な診療体制も整っていないのが現状です。慢性的な痛みを抱えることで、不安や抑うつ状態、行動意欲の低下や不眠に悩まされたり、生活の質(Quality of Life:QOL)の低下や仕事を続けるのが難しくなったりする可能性もあり、社会全体での効果的な取り組みが求められていました。

 こうした中、厚生労働行政推進調査事業(慢性の痛み政策研究事業)の研究班と「日本慢性疼痛学会」など慢性疼痛を取り扱う7学会のメンバーが協力して、2018年に「慢性疼痛治療ガイドライン」を作成しました。ガイドラインは、現在最も効果的で有用性が高い治療について、診察・治療している医療スタッフの意見を集約したもので、医療者が患者へ行う治療法や心理的アプローチ、リハビリテーションなどについて網羅しています。

次に、慢性疼痛の主な原因と治療法について、具体的に見ていきましょう。

4. 慢性疼痛の主な原因と治療法①「痛みを伴う疾病」

 まず1つ目は、炎症や組織の損傷で、末梢神経にある侵害受容器を刺激することによって生じる痛みです。具体的には、変形性膝関節症や関節リウマチ、椎間板ヘルニアなどの病気による慢性疼痛が該当します。治らないけがも慢性の痛みになることもあります。

 痛みを伴う疾病が原因の慢性疼痛の場合、痛みの強さに応じて、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)やオピオイド、鎮痛補助薬(抗うつ薬や抗てんかん薬など)といった痛みを緩和する鎮痛薬による薬物療法が行われています。

 

5. 慢性疼痛の主な原因と治療法②「神経の痛み」

 2つ目は、帯状疱疹などの感染症や交通事故などの外傷が原因で神経が傷つき、痛みが続くタイプです。神経障害性疼痛と呼ばれます。うずくような、ヒリヒリするような、ビーンと走るような、といった表現をされる方もいるでしょう。また糖尿病も進行すると末梢神経にダメージを与えるため、慢性的な痛みを感じることがあります。

 神経の痛みが原因の慢性疼痛の場合、三環系抗うつ薬や抗てんかん薬といった鎮痛補助薬を組み合わせた薬物療法で、症状の緩和を目指します。

6. 慢性疼痛の主な原因と治療法③「心理的な影響」

 3つ目は、中枢機能障害性疼痛と呼ばれ、ストレスなどで痛みを抑えようとする脳の機能が失われ、軽い刺激でも激痛を感じるようになります。うつ病の患者さんは、頭痛や腰痛、胸痛、関節痛、歯や胃腸の痛みなど、身体的な症状を訴えることがありますが、これらの痛みも中枢機能障害性疼痛の一部とされています。心理的な影響が原因の慢性疼痛の場合、抗うつ剤の使用が進められます。

 慢性疼痛の主な原因を3つ挙げましたが、これらの原因が複雑に絡み合って症状を悪化させていることもあります。薬物療法だけでなく、理学療法や心理療法などを組み合わせた治療が効果的でしょう。

 理学療法は、マッサージやはり治療を思い浮かべる人も多いと思います。その他、触覚過敏だったり、触ると痛んだりする領域をスプレーで冷却し、その後筋肉をストレッチするのもいいでしょう。損傷を受けた関節や筋肉などを支える装具を装着する場合もあります。

 心理療法は、カウンセリングや“今”に心を向けるマインドフルネスなどがあります。またビーチで休んだり、ハンモックに揺られたりしているところなど、落ち着いた心地よい場面をイメージする注意転換法も痛みのコントロールに役立つことがあります。

7. 再生医療を用いた治療法

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 これまで紹介したように、慢性疼痛の治療法はさまざまあります。しかし、いずれも対症療法が主で、根治療法がないのが現状です。そのような中、近年注目されているのが、脂肪由来幹細胞を用いた再生医療です。再生医療とは、けがや病気で本来の役割を果たせなくなった体の組織や臓器を、細胞を移植して元の働きに戻す医療のことです。

 慢性疼痛の治療法として再生医療を用いる場合、患者さん自身の脂肪組織から脂肪由来幹細胞を採取し、抹消静脈内に点滴投与します。脂肪由来幹細胞は傷ついた組織を治し、痛みの原因となる炎症を抑える働きもします 。再生医療を用いた治療法では、脂肪由来幹細胞が持つ、これらの能力や働きを利用して慢性疼痛をコントロールし、症状の緩和を図ります。自分の幹細胞を用いるため、拒絶反応や感染症の心配はありません。

 いかがでしたか?あなたに合った治療法が見つかり、慢性疼痛の苦しみが少しでも緩和されることを願っています。

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