難治の病「重症下肢虚血」を最新の再生医療が救う

監修者
セルメディカルチームジャパン 編集部

 足の指先が痛かったりしびれたり、色が悪かったりして「アカギレがなかなか治らない…」とお悩みの方。もしかしたらその症状、ただのアカギレではなく「重症下肢虚血」という病気につながるサインかもしれません。

 重症下肢虚血とは、手足の動脈が硬くなって血管が狭くなったり詰まったりする「閉塞性動脈硬化症」という病気のうち、特に重篤な状態を指します。

 そもそも動脈硬化は糖尿病や高血圧症、喫煙、肥満などの生活習慣病を患っている人ほど発症しやすい病気です。そのため健康管理に不安がある人は十分注意が必要です。また発症後は心筋梗塞や脳梗塞などの病気と合併しやすく、命にかかわることもあります。

そのため、早めの発見・対処が重要になります。

▼セルメディカルチームジャパンのサイトでも詳しく説明されています。

https://www.cellmedicalteamjapan.com/

1. 閉塞性動脈硬化症の症状と予後

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 まずは閉塞性動脈硬化症の症状の特徴から見ていきましょう。閉塞性動脈硬化症は、末梢動脈疾患ともいい、主に足の動脈に起こる動脈硬化で手に発症することもあります。特に50歳以上の男性に多く、肥満、高血圧、糖尿病、喫煙などが原因といわれています。

 症状は4段階に分けられます。初期症状としては、手足が冷たくしびれたり青白くなったりします。第2期には、一定距離を歩くと一時的にふくらはぎの筋肉が痛くなったりしびれたりする間欠性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれる症状が出ます。さらに第3期になると安静時疼痛に至り、安静にしているときでも足や手が痛むようになります。最終の第4期まで到達すると、手足に炎症・潰瘍(かいよう)ができて壊死します。足がこの状態になると重症下肢虚血で、治療は難しく、切断に至ることもあります。

上記の症状に心当たりがあれば、病院で受診してください。太ももの付け根や足の甲の動脈を触診し、脈が触れなかったり弱かったりしたらこの病気が疑われます。確定診断には血管造影検査を行います。この検査では造影剤と呼ばれる薬剤を血管に流しながら患部をX線撮影して、血管の狭くなった箇所や詰まった箇所を詳しく特定していきます。

この閉塞性動脈硬化症を発症した場合には、足の動脈だけでなく全身の血管にも動脈硬化が進行している可能性が高いので細心の注意が必要です。

参考:厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト「閉塞性動脈硬化症」

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-083.html

2. 閉塞性動脈硬化症の治療法

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 閉塞性動脈硬化症の一般的な治療法としては、まず動脈硬化の原因である糖尿病・高血圧・脂質異常症の治療を行うことになります。食生活の改善に加え、喫煙者は禁煙も必須です。

 最も重要なのが血流の改善です。手足の冷えやしびれといった初期症状の状態をそのまま放っておくと、血流は次第に悪化し、足に炎症ができたり腐ったりしてより激しい痛みを引き起こしてしまいます。

 初期の手足の冷感やしびれには血管拡張薬や血液を固まりにくくする薬を用います。また歩くなどの運動を取り入れて血行を促すことも大切です。硬化した血管を補助する新たな血管が発達し、全身の血流が改善される効果があります。

 症状が進行する場合には、狭くなったり詰まったりしている血管内に5mm径の医療用の風船を挿入し、内側から膨らませて血管を広げるバルーン治療や、狭くなった箇所を迂回させて血管をつなぐバイパス手術を行う必要があります。

ただしこれらの治療は高齢の患者さんには身体的負担が大きく、また症状が末梢まで広がっている患者さんには血管内治療やバイパス手術は行えません。

 閉塞性動脈硬化症が重症化し、重症下肢虚血の状態に至ると、治療をしても十分な効果が得られないことも。治療をしても足に必要な量の血液循環が戻らない場合、皮膚や皮下組織に潰瘍ができたり壊死したりして、切断を余儀なくされることもあります。切断を免れたとしても、安静にしていても痛みが続くため、生活の質(QOL)が著しく下がってしまう病気といえます。

3. 日常生活での注意点

閉塞性動脈硬化症の進行を抑えるためには、日々どのようなことに気を付ければ良いのでしょう。食事療法や禁煙などの生活習慣の見直しは、もちろん大変重要です。

それに加えて、足のケアを習慣付けましょう。足に傷やむくみがないか、黒ずんだ箇所がないかなどを入浴時にチェックし、清潔を保ってください。立ちっぱなしや座りっぱなしの姿勢を長時間続けると足の血流が悪くなり、症状が悪化することがあります。正座や和式トイレでのしゃがみ込む姿勢も注意が必要です。

靴は、足を圧迫するものや大きすぎて靴擦れするものは避け、傷やたこができにくいように気を付けましょう。

4. 再生医療を用いた治療

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 発症後の治療が難しい重症下肢虚血ですが、近年では、研究が進む再生医療を使った治療法が導入され、注目を集めています。日本再生医療学会によれば、再生医療とは「患者さん自身の細胞・組織又は他人の細胞・組織を培養等加工したものを用いて、失われた組織や臓器を修復・再生する医療のこと」とされています。ここでは、糖尿病を原因とする重症下肢虚血の新たな治療法として登場した「脂肪由来幹細胞」を用いた再生医療を紹介していきます。

 脂肪由来幹細胞を用いた再生医療の仕組みは、まず患者の腹部もしくは大腿部の皮下脂肪から脂肪組織を採取します。取り出した脂肪組織を医療機器にかけて遠心分離させ、脂肪由来幹細胞を取り出します。その幹細胞を静脈内点滴で全身投与します。

 脂肪由来幹細胞には血管の形成を促進する因子を分泌する性質、つまり新しい血管を作る作用があります。そのため幹細胞を投与した患部に新たな血管が生まれ、血液が供給されるのです。血流が改善されることで、痛みのもととなる潰瘍が小さくなることが期待されています。

 実際に国内外の研究では、痛みの軽減や潰瘍の縮小・治癒、血流改善といった事例が報告されています。細胞を用いる再生医療では拒絶反応のリスクが心配されますが、この脂肪由来幹細胞を使った治療は、患者さん自身から採取した幹細胞を使うので拒絶反応が出にくいのが特長です。足の痛み、しびれがどうしてもとれないとお悩みの方は、一度受診してみてはいかがでしょうか。

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