「再生医療というワードをよく耳にするようになったけれど、一体どんなものなのだろう?」
「さまざまな病気を治せる夢の医療のように言われているのは本当だろうか?」
「再生医療」という言葉を聞くたびに、そんな疑問を感じている人も多いのではないでしょうか。
簡単に説明すると、再生医療とは「本来の役割を果たせなくなってしまった身体の組織や臓器を、人間の細胞がもっている自然に再生する力を生かして、ふたたびもとのように働くことができる状態にする医療」です。
がん、肝硬変、糖尿病、脊髄損傷などさまざまな病気に対して治療効果が期待されています。
ただ、まだ新しい医療であるため未知の部分も多く、拒絶反応などリスクもあります。
最近では「再生医療でアンチエイジング」などとうたってる美容外科クリニックもありますが、自由診療の病院の中には必要な届出をせずに治療を行なっているところもあり、安易に飛びつくのは危険です。
そこでこの記事では、再生医療に興味を持ったあなたのために、必要な知識をわかりやすく網羅しました。
まず、
◼️ 再生医療とは何か
◼️ 再生医療のしくみ
を簡単に説明し、そして、
◼️ 再生医療のメリット・デメリット
◼️ 再生医療で治療できる病気
についても解説します。
さらに、実際に治療を希望する人のために、
◼️ 再生医療が受けられる施設
◼️ 再生医療の費用と保険適用
といった実用的な情報もおしらせします。
この記事を最後まで読めば、再生医療について知りたいことはひと通りわかるでしょう。
その知識をもとに、あなたの病気や身体の悩みがいつか解決されるよう願っています。
▼セルメディカルチームジャパンのサイトでも詳しく説明されています。
https://www.cellmedicalteamjapan.com/
目次
1. 再生医療とは?
まず冒頭で明らかにしておきたいのは、「再生医療とは何か」ということです。
その言葉の意味、定義を、医療にくわしくない方含め誰にもわかりやすく説明しましょう。
1-1. 再生医療は「幹細胞による根本治療」
日本再生医療学会のホームページを見ると、再生医療についてこう説明されています。
「再生医療」とは、機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、細胞を積極的に利用して、その機能の再生をはかるものであります。
(中略)
既に、皮膚や骨の分野においては、組織移植として実用化され、世界的に臨床応用されていることは周知のところであります。
─── 日本再生医療学会公式ホームページ「設立趣旨」より
つまり簡単にいえば、「本来の役割を果たせなくなってしまった身体の組織や臓器を、人間の細胞がもっている自然に再生する力を生かして、ふたたびもとのように働くことができる状態にする」のが「再生医療」だ、というわけです。
問題のある臓器に対して、従来の治療法のように薬を投与したり、他の人の臓器や人工臓器をそのまま移植して置き換えたりするのではなく、細胞自らが再生する力によって機能を回復させる、というところがポイントです。
では、「細胞自らが再生する力」とは何でしょうか?
その具体的な例としてよく挙げられるのが、「トカゲのしっぽ」です。
トカゲは、敵に捕まりそうになるなど危険に晒されると、自らしっぽを切り離して逃げることができます。そしてしっぽがあった部分からは、のちにまたしっぽが生えてくるのです。
これは、トカゲの細胞が強い再生能力をもっているからなのです。
一方人間の場合は、例えば指などを切断してしまった場合にそのまま生えてくることはありませんが、傷跡がふさがって回復したり、折れた骨がまた繋がったりしますよね。
これもまた、人間の細胞がもつ再生能力、自己治癒力によるものです。
その力を最大限まで高めることで、トカゲのしっぽのように、失われた部分と機能を取り戻そうというのが、再生医療だというわけです。
病気やけがの症状を緩和させる対症療法とは違い、組織や臓器そのものを健全な状態に戻していこうという考え方なので、「根本治療」であるとも言われています。
1-2. 再生医療でできること
再生医療で治療できる、または治療が期待できる疾患は非常に多岐にわたります。
例えば、国が承認している、または条件・期限付きで承認している治療としては、
・脊髄損傷
・虚血性心疾患による重症心不全
・慢性動脈閉塞症における潰瘍
・再発又は難治性のCD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病
・再発または難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)
・膝関節の外傷性軟骨欠損症と離断性骨軟骨炎(変形性膝関節症を除く)に対する「自家培養軟骨移植術」
・重症熱傷・先天性巨大色素性母斑・表皮水疱症に対する「培養皮膚」
などがあります。(2020年6月現在)
また、先進医療として認められているもの、臨床治験段階のもの、自由診療として実施されている治療も多く、
・脳梗塞
・がん
・糖尿病
・肝硬変
・急性心筋梗塞
・パーキンソン病
・脱毛症
・乳房再建
・肌質改善、しわ治療
など、非常に多岐にわたっています。
これについては「4. 再生医療で治療できる病気」の章でくわしく説明しますので、「自分の病気が再生医療を受けられるのか?」が知りたい人は、そちらも熟読してください。
ただ、再生医療にはひとつ重要なポイントがあります。
それは、「どんな細胞でも再生能力をもっているわけではない」ということです。
この能力を備えているのは「幹細胞」と呼ばれる特別な細胞で、これが再生医療に利用されるのです。
そのため、再生医療とは「幹細胞を利用した根本治療」であるとも言われます。
この幹細胞については、このあとの「2. 再生医療の仕組み」「6. 再生医療に利用される主な幹細胞3種」でくわしく説明しますので、そちらも参照してください。
では、この再生医療の仕組みについて、さらにくわしく説明していきましょう。
2. 再生医療の仕組み
前述したように、再生医療の仕組みにおいて中心となるのは「幹細胞」と呼ばれる細胞です。
まずは、この幹細胞とはどんなものかということから説明していきましょう。
そもそも人間の身体は、最初は「受精卵」というたったひとつの細胞から始まっており、この受精卵が細胞分裂を繰り返すことで、身体をかたちづくり成長していくものです。
そしてその分裂の過程で、各細胞はそれぞれに役割をもつようになります。
例えば皮膚の細胞になったり、骨の細胞になったり、神経、筋肉、血液、さまざまな臓器になったりするのです。
これを細胞の「分化」と呼んでいます。
ただ、これらの細胞には寿命があり、いったん役割が決まったからといって、いつまでもその機能を果たし続けるわけではありません。
寿命がくれば細胞も死を迎え、かわりに新しい細胞が分化して入れ替わります。
人間の身体では、つねにこの「細胞の入れ替わり」が起きているのです。
ここで重要な役割を担うのが「幹細胞」です。
同じ細胞の中でも、決められた役割を果たして死んでいくものを「機能細胞」と呼びますが、この機能細胞を生み出すことができる特別な細胞が「幹細胞」なのです。
幹細胞は、機能細胞と違って特定の組織や臓器に分化していない「未分化」の細胞ですが、そのかわり機能細胞にはない以下のようなふたつの特徴を兼ね備えています。
1)自己複製能
分裂し、自分と同じ細胞を何度でも作り出すことができます。
2)多分化能
いくつかの異なる種類の細胞に分化することができます。
つまり、以下の図のように自分の複製を作りつつ、複数種の機能細胞を生み出すことができるのです。
この幹細胞の能力を利用して、失われた組織や臓器を再生しようというのが「再生医療」の基本的な考え方です。
具体的にいえば、まず人間の身体から幹細胞を採取し、身体の外でそれを培養して増やすことで、組織や臓器を作り出し、それを患者に移植する、ということなのです。
もちろんこれは、あくまで基本的なイメージで、すべての再生医療がこの方法で行われるわけではありません。
再生医療はまだ研究中、発展中の分野であり、さまざまな新しい手法が実験・治験段階にあります。
例えば、再生医療研究の権威・上田実博士は、幹細胞そのものを人に移植するのではなく、「培養上清」というものを投与する治療法を発見しました。
培養上清とは、幹細胞を取り出して培養した際の培養液の上澄みのことです。
これを鼻から吸引したり塗布したりすることで、患者自身の体内にある幹細胞を活性化させ、失われた組織や臓器を再生し、機能の回復に導くことがわかったのです。
この治療法は、幹細胞を移植する方法と比較して、
・患者の身体への負担が少ない
・がん化するリスクがない
・薬として製品化できるので便利
・低コスト
といったメリットがあるため、非常に注目を集めています。
今後は、幹細胞を移植する方法にかわって、培養上清が再生医療の主流になるかもしれませんが、この記事ではひとまず、幹細胞を移植する方法をベースとして話を進めていきましょう。
参考:『驚異の再生医療 〜培養上清とは何か〜』上田実、扶桑社新書(2019年)
参考:再生医療について(厚生労働省)
参考:再生医療ポータル(一般社団法人日本再生医療学会)
参考:SKIP(Stemcell Knowledge & Information Portal)(国立研究開発法人日本医療研究開発機構<AMED>)
参考:多能性幹細胞安全情報サイト(国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子細胞医薬部)
参考:テーマパーク8020(日本歯科医師会)
3. 再生医療のメリット・デメリット
ここまで「再生医療とは何か」「再生医療で何ができるのか」について説明してきました。
まだまだ新しい医療として研究段階のものも多くありますが、さまざまな分野でその治療効果が期待されていることがわかりましたよね。
では、実際に再生医療は、従来の医療と比較してどんな点が優れているのでしょうか?
反対に、リスクやデメリットはないのでしょうか?
まず、再生医療の最大のメリットは、患者の身体に負担やリスクが少ないということでしょう。
従来の医療であれば、病気の治療には薬を投与したり、手術をしたりする必要がありますが、これには副作用や拒絶反応の危険があります。
一方で、現在行われている体性幹細胞による再生医療の場合、患者自身の幹細胞を用いるため拒絶反応はありませんし、身体にメスを入れることも最小限にとどめる「低侵襲治療」が行えるのです。
ただ、もちろんデメリットやリスクもあります。
まず、再生医療は新しい医療であるため、まだ有効性が確認されていない治療も多くあります。
国が承認している保険適用の治療以外のものは、試験的な一面があると言えるでしょう。
また、保険適用外の治療が多いため、費用が高額になってしまうのも難点です。
このメリット・デメリットについては、別記事「再生医療のメリットとは?幹細胞3種それぞれのメリットを表で比較」「再生医療のデメリットとトラブル事例を紹介|幹細胞が抱える欠点とは?」でさらにくわしく解説してありますので、そちらもぜひ読んでみてください。
4. 再生医療で治療できる病気
第1章でも触れましたが、再生医療で治療できる疾患は実に多岐にわたっています。
ただ、すでに国から承認を受けて健康保険が適用される治療もあれば、ヒトでの治験を行っているもの、まだ大学などの研究機関で研究されているだけのものなど、その段階はさまざまです。
そこでこの章では、現在再生医療で治療できる、または治療が期待される疾患を、その段階別にあげておきましょう。
4-1. 現在受けられる再生医療
現在受けられる再生医療は、大きくわけて以下の3種があります。
1)国の承認を受けて保険適用されている治療
2)先進医療として認められ一部保険適用される治療
3)自由診療(全額自己負担)で受けられる治療
その主なものは以下の通りです。
国の承認を受けている治療 | 先進医療と認められている治療 | 自由診療で受けられる治療 |
---|---|---|
・造血幹細胞移植後の急性移植片対宿主病 <条件及び期限付き承認> | ・胸髄損傷 | ・がん |
国が「先進医療」と認めた治療では、全体の治療のうち先進医療にあたる部分は保険適用外ですが、それ以外の通常の治療にあたる部分(診察、検査、投薬、入院など)には保険が適用されます。
また、さまざまな医療機関が自由診療で行っている治療の中には、病気の治療だけでなく、美容や薄毛治療など幅広い分野のものがありますが、国によって治療の有効性が確認されていないため、受ける際には注意が必要です。
もし「これらの治療を受けたい」という場合は、「7. 再生医療が受けられる施設」で医療機関を探す方法を紹介していますので、そちらを確認してください。
4-2. 研究中の再生医療
一方で、今後の臨床応用=一般的な患者への治療を目指して、研究段階にある再生医療も多数あります。
それらは研究段階のレベルで、以下の3つにわけることができます。
1)臨床治験(国からの承認を目指し、実際にヒトに治療や投薬を行う試験)を行っている治療
2)臨床試験・臨床研究(治験以外)を行っている治療
3)大学などの研究機関で研究中(まだヒトを対象にしていないなど)の治療
それぞれ非常に多くの診療科・部位・疾患に関して研究されているため、その中からよく知られている疾患を中心に以下にリストアップしてみました。
治験を行っている治療 | 臨床試験・臨床研究中の治療 | 研究機関で研究中の治療 |
---|---|---|
・脳梗塞 | ・加齢黄斑変性 | ・歯、外分泌腺などの立体形成 |
もし、「治験でいいので治療を受けたい」と希望する場合は、「7. 再生医療が受けられる施設」で臨床治験や臨床試験を行っている医療機関・研究期間を探す方法を説明しますので、そちらに目を通してください。
参考:再生医療等提供機関一覧(各種申請書作成支援サイトで登録されているもの)(厚生労働省)
参考:再生医療ポータル(一般社団法人日本再生医療学会)
参考:独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ「新再生医療等製品の承認品目一覧」
参考:先進医療の概要について(厚生労働省)
5. 再生医療の種類
4章では再生医療でできる治療の種類をあげましたが、実はそれ以外にも再生医療の分類方法があります。
この章ではふたつの分類を挙げて、簡単に説明しておきましょう。
5-1. 法律で定められた治療のリスクによる分類
再生医療はまだ新しい医療技術であるため、その治療によっては人の命や健康に影響を与える可能性があります。
そこで国が「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」という法を定めました。
これにより、以下の3段階に分類されています。
分類 | リスク | 定義 | 具体例 |
---|---|---|---|
第一種再生医療等技術 | 高 | 人の生命及び健康に与える影響が明らかでない又は相当の注意をしても人の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあることから、その安全性の確保等に関する措置その他のこの法律で定める措置を講ずることが必要なものとして厚生労働省令で定める再生医療等技術 | ES細胞やiPS細胞を利用した医療など |
第二種再生医療等技術 | 中 | 相当の注意をしても人の生命及び健康に影響を与えるおそれがあることから、その安全性の確保等に関する措置その他のこの法律で定める措置を講ずることが必要なものとして厚生労働省令で定める再生医療等技術(第一種再生医療等技術に該当するものを除く。) | 体性幹細胞を利用した医療など |
第三種再生医療等技術 | 低 | 第一種再生医療等技術及び第二種再生医療等技術以外の再生医療等技術 | 体細胞を加工する医療など |
「再生医療等の安全性の 確保等に関する法律について」厚生労働省
5-2. 利用される幹細胞の種類による分類
再生医療に用いられる幹細胞にも種類があります。
その主なものは以下の3つで、どれを利用する治療であるかによっても分類が可能です。
幹細胞の種類 | 特徴 |
---|---|
体性幹細胞 | ヒトの身体の中に存在する幹細胞で、限定した分化能を保有するヒト細胞 |
ES細胞 | 受精卵を培養して得られる胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたヒト細胞 |
iPS細胞 | 人工的に多能性を誘導されたヒト幹細胞 |
これについては、次章「6. 再生医療に利用される主な幹細胞3種」でくわしく説明しますので、そちらも参照してください。
参考:「再生医療等の安全性の 確保等に関する法律について」厚生労働省
参考:「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」(平成25年厚生労働省告示第317号)
参考:「第10回厚生科学審議会科学技術部会 ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会 議事次第」厚生労働省 「資料3:ヒト幹細胞の定義(中畑委員提出)」
6. 再生医療に利用される主な幹細胞3種
再生医療は、幹細胞の「自己複製能」と「多分化能」を利用して、組織や臓器の再生をはかる医療ですが、その際に用いられる幹細胞は1種類ではありません。
現在では主に、
・体性幹細胞
・ES細胞
・iPS細胞
の3種を用いる方法があります。
中でも「iPS細胞」は、現・京都大学iPS細胞研究所所長である山中伸弥教授が世界ではじめてこの細胞の作製に成功し、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞したことで一躍注目を浴びました。
これら3種にはそれぞれ特長、メリット・デメリットがあります。
以下の表に簡単にまとめましたので、見てください。
体性幹細胞 | ES細胞 | iPS細胞 | |
---|---|---|---|
作製方法 | ヒトの身体に自然に存在する | 受精卵が数回分裂したあとの細胞のかたまり=「胚」から細胞を取り出し、培養する | ヒトの皮膚や血液などの細胞に、特定の4つの遺伝子を導入して培養する |
特長・能力 | 特定の種類の細胞に分化が可能 | すべての種類の細胞に分化が可能=多能性幹細胞 | すべての種類の細胞に分化が可能=多能性幹細胞 |
移植の適合性 | 患者自身の細胞を用いるので、免疫拒絶反応が起こらない | 他人の細胞から作られるため、免疫拒絶反応が起こるリスクがある | 他人の細胞からも患者自身の細胞からも作ることができ、免疫拒絶反応が起こるリスクは低い |
倫理的な問題 | 患者自身の細胞を用いるので、問題はない | 受精卵を使うため、ヒトの命に操作を加えることが問題視される | 皮膚や血液などありふれた細胞を用いるので、問題はない |
臨床上の課題 | ・体内に存在する数が少ない | ・腫瘍化、がん化のリスクがある | ・腫瘍化、がん化のリスクがある |
臨床の現状 | 現在一般的に実施されている幹細胞を利用した再生医療は、基本的には体性幹細胞を用いたもの | 海外で臨床試験あり | 2014年に日本で世界初の臨床手術を実施 |
では、3種それぞれについてくわしく説明しましょう。
6-1. 体性幹細胞
体性幹細胞は、私たち「ヒト」の身体の中に自然に存在する幹細胞で、造血幹細胞、脂肪幹細胞、表皮幹細胞、神経幹細胞などの種類があります。
幹細胞なので自己複製能と多分化能を持っていますが、その能力は限定的です。
それぞれの幹細胞が分化できる細胞の種類は限られており、分裂できる回数にも限りがあります。
主な幹細胞が分化できる細胞は以下の通りです。
・造血幹細胞:骨髄の中に存在し、白血球、赤血球、血小板など血液細胞に分化する
・脂肪幹細胞:脂肪組織の中に存在し、さまざまな細胞に分化できる
・表皮幹細胞:肌の表皮に存在し、皮膚を作る表皮角化細胞を作り出す
・間葉系幹細胞:骨髄、脂肪組織、胎盤組織や臍帯組織などさまざまな組織から採取でき、間葉系に属する細胞(骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞など)に分化する
再生医療で利用される際には、患者自身の身体から採取した体性幹細胞を体外で培養し、患者の身体に移植するため、免疫拒絶反応が起こらないという大きなメリットがあります。
現在一般的に行われている幹細胞を用いた再生医療は、基本的にはこの体性幹細胞による治療です。
6-2. ES細胞
ES細胞は、受精卵が6〜7日経って数回分裂してできる「胚」から細胞を取り出し、それを培養することで人工的に作られる「多能性幹細胞」のひとつです。
1981年にはじめてのマウスES細胞が作られました。
発生初期の胚から作られるため未分化で、受精卵に近い高い自己複製能、多分化能を持っているのが特長です。
人間の身体のあらゆる組織の細胞に分化することができ、分裂回数もほぼ無限であるため「万能細胞」とも呼ばれています。
1998年にアメリカのチームがヒトES細胞の作製に成功すると、2007年に京都大学の山中伸弥教授によるヒトiPS細胞が登場するまで、再生医療の中心と担う幹細胞として期待を集めていました。
ただ、万能細胞である反面、大きな課題も抱えています。
ひとつは、胚から作られるため、患者は他人の細胞を移植されることになるという点です。
自家移植である体性幹細胞治療に対して、ES細胞は他家移植であるため、免疫拒絶反応を引き起こすリスクが避けられません。
さらに、材料となるのが「胚」であることも問題視されています。
胚はこれから分裂を繰り返せば、やがて生物になるはずのものです。
つまり「命の萌芽」とも言えるもので、それを壊してES細胞を作ることは倫理的に問題なのではないか、と議論が巻き起こったのです。
ヒトES細胞の材料となる胚は、不妊治療の際に必要なくなったもので、ドナーの同意も受けていますが、それでもこの議論は根強く、ES細胞の臨床応用が進まない一因となっています。
6-3. iPS細胞
iPS細胞は、ヒトの皮膚や血液などの細胞から人工的に作られる「多能性幹細胞」です。
ヒトの身体のあらゆる細胞に分化することができ、分裂回数もほぼ無限の「万能細胞」であることは、ES細胞と同様です。
が、未分化の細胞から作られるES細胞とは異なり、iPS細胞は分化済みの成熟細胞を材料としています。
採取した成熟細胞に特定の遺伝子4つを取り込ませることで、未分化の幹細胞だった状態に初期化(=リプログラミング)することができるのです。この4つの遺伝子は、発見者の山中教授の名を冠して「ヤマナカファクター」と呼ばれています。
iPS細胞は、ES細胞の抱えるふたつの課題を解決する存在として注目を集めました。
まず、自家移植ができるので、免疫拒絶反応のリスクは低くなります。
そして、ヒトの成体から採取した細胞で作るので、倫理的な問題もありません。
まだ発見から日が浅く、品質が安定しない、がん化のリスクがあるなど課題はいろいろとありますが、今後の臨床試験に期待が集まっています。
参考:「身体のはじまりを知る―幹細胞のはなし―」小川亜希子(生物工学会誌 第94巻第5号、2016年)
参考:「iPS 細胞の可能性と今後の課題」高橋 政代(学術の動向 第14巻第8号、2009年)
参考:「再生医療の現状と問題点」中畑龍俊(炎症・再生 第24巻第2号、2004年)
参考:「『臨床応用』における幹細胞の特徴 比較」厚生労働省
参考:「先天性尿素サイクル異常症でヒトES細胞を用いた治験を実施―ヒトES細胞由来の肝細胞のヒトへの移植は、世界初!―」国立成育医療研究センター 日本医療研究開発機構
7. 再生医療が受けられる施設
では、「再生医療を受けたい」と希望する場合、どの医療機関で治療が受けられるのでしょうか?
実は、前述した「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」という法律により、再生医療を行う医療機関・研究機関は、厚生労働省に届出をして受理されなければならないと定められているのです。
中には無届けで再生医療を行う病院があって、過去には医大のスタッフが逮捕された例もありました。
そこでまず第一に、「厚生労働省に届出をしている医療機関・研究機関であるか」を確認する必要があります。
これについては、厚生労働省が「再生医療等提供機関一覧」としてリストを公開していますので、こちらで確認してください。
ただこの一覧は、再生医療のリスク分類にしたがって、
◎第1種の研究を行っている機関・治療を行っている機関
◎第2種の研究を行っている機関・治療を行っている機関
◎第3種の研究を行っている機関・治療を行っている機関
という6分類で掲載されているだけで、疾患別や地域別などの検索ができません。
検索したい場合は、日本再生医療学会が開設しているポータルサイト「再生医療ポータル」の「提供機関をさがす」ページがあります。
地域、診療科、治療法、病名、部位などで検索することができるので便利です。
ただし、ここに掲載されている機関は、
◾️自由診療を行う医療機関
◾️臨床研究を行う医療機関
に限られるので、厚生労働省のリストと補完しながら利用するといいでしょう。
8. 再生医療の費用と保険適用
再生医療を受けられる医療機関が見つかったら、次に気になるのは費用ですよね。
残念ながら、現在では保険適用が認められている再生医療は多くはありません。
「4-1 現在受けられる再生医療」の表の中で、「国の承認を受けている治療」として挙げられているものだけです。
それ以外は、
◾️「先進医療」として認められている治療の場合、一部保険適用、再生医療にあたる部分は全額自己負担
◾️自由診療の場合、全額自己負担
となり、高額の医療費が必要となるのです。
自由診療の費用は医療機関によって異なるため、各病院・クリニックに問い合わせましょう。
これについてもくわしくは別記事「再生医療で受けられる治療の種類は?保険適用から研究中のものまで解説」に解説がありますので、参照してください。
9. まとめ
いかがでしたか?
あなたが再生医療について知りたいことはひと通りわかったかと思います。
では最後に、記事の要点をまとめてみましょう。
◎再生医療とは「幹細胞による根本治療」
◎再生医療に利用される幹細胞は主に3種
・体性幹細胞
・ES細胞
・iPS細胞
◎現在、保険診療で受けられる再生医療もある
この記事を参考に、あなたが安全で効果的な再生医療を受けられるよう願っています。
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