再生医療のメリットとは?幹細胞3種それぞれのメリットを表で比較

監修者
セルメディカルチームジャパン 編集部

「再生医療がさまざまな病気の治療で注目されているけれど、具体的なメリットは何だろう」

「既存の治療法と比べて何がそんなにすばらしいんだろう」

 

再生医療についてのニュースや記事を見て、そんな疑問を抱いた人も多いでしょう。

 

再生医療のメリットは、大きく3つ挙げられます。

 

1)さまざまな疾患の根本的治療が可能

2)拒絶反応や副作用がない、または低減される

3)患者の身体に負担がかからない(低侵襲治療)

 

従来の医療では根治が難しかった難病にも有効であり、手術による患者の負担や拒絶反応の苦しみなどのリスクも低いのが、再生医療の特長です。

そのため「根本治療」と言われているのです。

 

この記事ではこれらのメリットをくわしく解説するとともに、

 

◼️ 再生医療に使われる幹細胞3種それぞれのメリット

・体性幹細胞のメリット

ES細胞のメリット

iPS細胞のメリット

についても比較表を用いてわかりやすく説明します。

 

この記事を最後まで読めば、再生医療を受けるメリットとは何か、どれほど画期的な医療なのかがよく理解できるでしょう。

 

1. 再生医療のメリットとは

2012年、現・京都大学iPS細胞研究所所長である山中伸弥教授が世界ではじめてiPS細胞の作製に成功し、ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

これをきっかけに、それまでも注目されていた再生医療に、さらに大きな期待が寄せられるようになっています。

 

というのも、再生医療には今までの医療になかった大きなメリットがあるのです。

それは、主に以下の3点です。

 

1)さまざまな疾患を根本的に治療することが可能

2)拒絶反応や副作用がない、または低減される

3)患者の身体に負担がかからない(低侵襲治療)

 

では、それぞれについてくわしく説明しましょう。

 

1-1. さまざまな疾患の根本的治療が可能

再生医療は、病気やケガによって本来の役割を果たせなくなってしまった身体の組織や臓器を、人間の細胞がもっている自然に再生する力を生かして、ふたたびもとのように働くことができる状態にするものです。

従来の治療であれば、機能が失われた組織・臓器に対して薬を投与したり手術で患部を切除したり、他の人の臓器や人工臓器をそのまま移植して置き換えたりしますよね。

対して再生医療は、細胞自らが再生する力によって機能を回復させる「根本治療」なのです。

 

「細胞自らが再生する力」とは、例えば「トカゲのしっぽ」のようなイメージだと考えてください。

トカゲは危険に遭遇すると、自らしっぽを切って逃げますが、切ったところからまたしっぽが生えてきますよね。

人間の場合、切断された部分が自然にそのまま生えてくることはありませんが、それでも傷は自然にふさがりますし、折れた骨も繋がります。

これは、人間の細胞にもトカゲほど強力ではなくとも再生する力が備わっているためです。

この再生する力を持った細胞を、「幹細胞」と呼びます。

 

つまり、幹細胞の再生する力を最大限に高めることで、トカゲのしっぽのように失われた組織や臓器をもと通りに再生しようというのが「再生医療」なのです。

この再生医療のしくみについては、別記事「再生医療とは?仕組みや再生医療でできることをわかりやすく解説

にくわしく説明がありますので、そちらも参照してください。

 

ともかく、病気の症状をやわらげたり進行を抑えたりするのではなく、もと通りの状態や希望を取り戻すことができるという点が、従来の治療にはない再生医療の大きなメリットなのです。

 

また、組織や臓器そのものを再生させることができるため、従来の治療法では根治が難しい難病にも有効性が期待できます。

例えば脊髄損傷は、今までは永続的な身体の麻痺など重大な障害が残ってしまう恐れのある疾患でした。

が、近年この脊髄損傷に対する再生医療に保険が適用されるようになりました。

「ステラミック注」と名付けられた治療法で、患者自身の骨盤から骨髄細胞を採取、その中に含まれている幹細胞を培養し、静脈から点滴で体に戻します。

投与された幹細胞は、損傷した脊髄などにたどり着いて機能を発揮すると考えられているのです。

 

他にも治験段階や研究中の難病治療が数多くあり、パーキンソン病、糖尿病、クローン病、心筋梗塞などに対しても効果が期待されています。

再生医療で治療・研究が行われている疾患については、別記事「再生医療で受けられる治療の種類は?保険適用から研究中のものまで解説」を参照してください。

 

1-2. 拒絶反応や副作用がない、または低減される

従来の治療法では、薬品の副作用や手術に対する拒絶反応、後遺症などのリスクが避けられません。

が、再生医療はそのリスクを減らすことができる、またはケースによってはノーリスクで受けられるという利点もあります。

 

というのも、多くの再生医療では患者自身の細胞をいったん取り出し、体外で培養してから患者に移植するためです。

薬品や他人の細胞などが身体に取り込まれると、それを排除しようとして拒絶反応が起きますが、自分の細胞を取り入れるのであれば、拒絶反応は起こりません。

 

ただ、再生医療の中でもES細胞やiPS細胞を用いた場合は拒絶反応のリスクがあります。

そこで現在、これらを用いた場合でも拒絶反応をなるべく抑えられるよう研究が進められています。

 

1-3. 患者の身体に負担がかからない(低侵襲治療)

再生医療は、患者の身体にかかる負担も最小限に抑えられるのもメリットです。

従来の治療法では何時間にもおよぶ手術で身体に大きくメスを入れたり、患部を切除したりすることで、治療後の患者の身体にダメージが残ります。

 

例えばがんの場合を考えてみましょう。

外科手術で患部を切除する際に、どうしても正常な組織も一緒に切除することになります。

その結果、今まであった身体の形状が損なわれたり、機能を失ってしまう恐れがあるのです。

舌がんや乳がんなどで切除術を受けた場合、その後に生活の不便や精神的苦痛があることは想像に難くないですよね。

 

一方で再生医療の場合、患者の体から細胞を採取する際にも小さな傷でごく少量の組織を採取することでダメージを最小限に抑えられます。

そのため再生医療は「低侵襲治療(患者の身体に負担がかからない治療)」と言われています。

 

 

参考:『驚異の再生医療 〜培養上清とは何か〜』上田実、扶桑社新書(2019年)

参考:再生医療について(厚生労働省)

参考:再生医療ポータル(一般社団法人日本再生医療学会)

参考:SKIP(Stemcell Knowledge & Information Portal)(国立研究開発法人日本医療研究開発機構<AMED>)

参考:テーマパーク8020(日本歯科医師会)

参考:脊髄再生医療に関する解説(国立障害者リハビリテーションセンター)

 

2. 幹細胞3種それぞれのメリット

前述したような大きなメリットがある再生医療ですが、実はそこで利用される「幹細胞」には種類があります。

主なものは以下の3種類です。

 

1)体性幹細胞

2ES細胞

3iPS細胞

 

そして、これら3種の幹細胞それぞれに異なるメリットがあるのです。

わかりやすく比較表にしましたので、以下をみてください。

体性幹細胞
(成体幹細胞、組織幹細胞)

ES細胞
(胚性幹細胞)

iPS細胞
作製方法

ヒトの身体に自然に存在する
(人工的に作製する必要はない)

受精卵が数回分裂したあとの細胞のかたまり=「胚」から細胞を取り出し、培養する

ヒトの皮膚や血液などの細胞に、特定の4つの遺伝子を導入して培養する

特長・能力

特定の種類の細胞に分化が可能
分裂回数には限りあり

すべての種類の細胞に分化が可能=多能性幹細胞
分裂回数はほぼ無限

すべての種類の細胞に分化が可能=多能性幹細胞
分裂回数はほぼ無限

移植の適合性患者自身の細胞を用いるので、免疫拒絶反応が起こらない他人の細胞から作られるため、免疫拒絶反応が起こるリスクがある他人の細胞からも患者自身の細胞からも作ることができ、免疫拒絶反応が起こるリスクは低い
倫理的な問題患者自身の細胞を用いるので、問題はない受精卵を使うため、ヒトの命に操作を加えることが問題視される皮膚や血液などありふれた細胞を用いるので、問題はない
臨床上の課題

・体内に存在する数が少ない
・体外で増殖、維持するのが難しい

・腫瘍化、がん化のリスクがある

・腫瘍化、がん化のリスクがある
・性質が安定しない

臨床の現状現在一般的に実施されている幹細胞を利用した再生医療は、基本的には体性幹細胞を用いたもの

海外で臨床試験あり
日本では2019年に初の治験を実施

2014年に日本で世界初の臨床手術を実施

メリット
まとめ

・正常な組織の中に存在するので安全性が高く、がん化の可能性が低い(体外増幅したものは不明)
・1970年代から行われていて症例が多い

・ほぼ無限に増殖する
・分化多能性がある

・ほぼ無限に増殖する
・分化多能性がある
・免疫拒絶反応が起きにくい
・体細胞から作製できるので倫理的な問題がない

ではそれぞれくわしく説明しましょう。

 

2-1. 体性幹細胞のメリット

体性幹細胞は人の身体に自然に存在する幹細胞で、現在一般的に行われている幹細胞を用いた再生医療は、すべてこの体性幹細胞によるものです。

その主なメリットは以下の2点です。

 

2-1-1. 安全性が高い

体性幹細胞を用いた再生医療では、患者自身の幹細胞を採取して、体外で培養してから患者に移植します。

自分の細胞を再び取り込むので、免疫拒絶反応の恐れはなく安全性が高いのが最大のメリットです。

 

2-1-2. 1970年代から行われていて症例が多い

1970年代、アメリカのマサチューセッツ工科大学のグリーン博士たちのグループが、表皮細胞、軟骨細胞などの分化細胞の培養技術を確立しました。

その後、1980年代には重症熱傷の患者から採取した表皮細胞を培養して患者自身に移植した臨床結果を発表し、これが現在「再生医療」として注目されている医療分野のはじまりとされています。

 

つまり、体性幹細胞による自家移植は50年の歴史があり、特に、現在一般的に行われている幹細胞治療はすべて体性幹細胞を用いたものであるため、研究成果や臨床例の蓄積が豊富だというメリットがあるのです。

 

2-2. ES細胞のメリット

ES細胞は、患者自身ではなく他人の「胚」から作られる幹細胞です。

そのため、免疫拒絶反応が起きるリスクがあり、また、受精卵から生まれた「胚」を使うことから「人の命を操作することの是非」という倫理的な問題も生じます。

が、一方で以下のような大きなメリットもあります。

 

2-2-1. ほぼ無限に増殖する

そもそも幹細胞というのは、

 

1)分裂して自分と同じ細胞を何度でも作り出すことができる「自己複製能」

2)異なる種類のさまざまな細胞に分化することができる「多分化能」

 

というふたつの能力を持っています。

この能力を生かして、身体の失われた組織や機能を回復させるのが再生医療です。

 

上の表にあるように、体性幹細胞はこの分裂回数も分化できる種類も限られていますが、ES細胞はほぼ無限に増殖することができるのが利点です。

 

2-2-2. 分化多能性がある

幹細胞のもうひとつの能力「多分化能」についても、ES細胞は優れています。

「分化」とは、細胞が分裂する過程で、皮膚の細胞になったり、骨の細胞になったり、神経、筋肉、血液、さまざまな臓器になったりと、決まった役割を持つことを指します。

体性幹細胞は、分化できる細胞の種類が限られていますが、ES細胞は身体の中のあらゆる細胞に分化することができるという特長があるのです。

つまり同じES細胞が、人間に必要なすべての細胞になり得るということで、再生医療においては大きなメリットだと言えるでしょう。

 

2-2-3. 基礎的研究の成果の蓄積が豊富

再生医療におけるES細胞の歴史は体性幹細胞に続いて長く、1981年にイギリスのエバンス博士らがマウスの胚からES細胞を作る方法を発見したのがはじまりでした。

1998年にはヒトES細胞が発見され、以来さまざまな研究が行われてきたのです。

最近では、人を対象に臨床試験も行われはじめています。

その蓄積による豊富な研究成果があり、2006年に発見されたばかりのiPS細胞に一歩先んじていると言えるかもしれません。

 

2-3. iPS細胞のメリット

近年、再生医療のスター的存在として注目を一手に集めているのがiPS細胞です。

人の皮膚や血液などの細胞から作製される幹細胞ですが、まだ発見から間もないにも関わらず、ES細胞よりも期待を集めたのは、以下のような特長があるためです。

 

2-3-1. ほぼ無限に増殖する

iPS細胞の自己複製能は非常に高く、ES細胞同様に無限に増殖することができます。

 

2-3-2. 分化多能性がある

多分化能についてもES細胞同様で、人間の身体を構成するあらゆる細胞に分化することが可能です。

そのためiPS細胞もES細胞の「万能細胞」とも呼ばれています。

 

2-3-3. 免疫拒絶反応が起きにくい

iPS細胞は、他人の細胞から作るES細胞とは異なり、自分の細胞から作ることができるため、免疫拒絶反応が起きにくいのもメリットです。

ただ、以前にはiPS細胞が「ES細胞よりも免疫反応が引き起こされやすい可能性がある」という報告が、アメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校のチームからなされたことがありました。

が、これに対して京都大学iPS細胞研究所の公式サイト「CiRA(サイラ)」では、以下のように回答しています。

Zhaoらの論文(注:前述のカリフォルニア大学のチームからの報告)では、未分化なiPS細胞を移植していますが、(中略)未分化なiPS細胞を移植すると、テラトーマと呼ばれる奇形腫(良性腫瘍)をつくってしまうので、(中略)いくら自己の細胞から作製したiPS細胞であっても、未分化なまま移植して奇形腫を作らせたら、Zhaoらの論文のように、これを排除しようとする免疫反応が起きても不思議ではありません。

2013年にはCiRAの髙橋淳教授らのグループが、サルを使った研究で、iPS細胞から作製した神経細胞を脳内に移植する実験を行い、 自己の細胞から作製した細胞の場合は殆ど免疫反応が起こらないことを報告しています。 また、2017年にはMHCという、免疫反応の関わる遺伝子を多く含む抗原(ヒトの場合はHLA)を適合させることによって、 他者の細胞からの場合でも免疫反応をある程度抑えられることをサルを使った研究で報告しました。

出典:京都大学iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)「iPS細胞とは?」

つまりiPS細胞を正しく用いれば、自家移植の場合はほとんど免疫反応はなく、他家移植の場合でも拒絶反応を抑える方法はある、ということです。

最近も、拒絶反応の少ないiPS細胞の作製方法が開発されたりしていますので、今後この問題はますます改善されていくのではないでしょうか。

 

2-3-4. 体細胞から作製できるので倫理的な問題がない

ES細胞とiPS細胞はどちらも万能細胞と言われますが、iPS細胞が画期的なのは、実は「倫理的な問題がない」ことによるところが大きいのです。

というのも、ES細胞は人間の受精卵が数回分裂を繰り返してできる細胞のかたまり=「胚」から作られます。

つまり、これから人間になろうとする、いわば「命のはじまり」に対して手を加えることになるわけで、倫理的に問題があるのではないかという議論がなされているのです。

 

一方iPS細胞は、人間の皮膚や血液といった成熟した細胞から作られるため、命に関わる問題はありません。

倫理的な問題がなく、大量に培養でき、身体のすべての細胞に分化することができるということが、iPS細胞に大きな期待が集まっている理由です。

まだ発見から日が浅い幹細胞で、人に対する臨床試験も始まったばかりですが、現在さまざまな研究が勧められています。

 

ここまで再生医療のメリットについて解説してきましたが、一方でデメリットももちろんあります。

それについては別記事「再生医療のデメリットとトラブル事例を紹介|幹細胞が抱える欠点とは?」でくわしく説明してありますので、あわせてぜひ読んでください。

 

参考:再生医療等の安全性の確保等に関する法律

参考:「再生医療等の安全性の 確保等に関する法律について」厚生労働省

参考:「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」(平成25年厚生労働省告示第317号)

参考:「第10回厚生科学審議会科学技術部会 ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会 議事次第」厚生労働省 「資料3:ヒト幹細胞の定義(中畑委員提出)」

参考:「第15回厚生科学審議会科学技術部会 ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会 資料」厚生労働省 「「臨床応用」における幹細胞の特徴 比較」

参考:SKIP(Stemcell Knowledge & Information Portal)(国立研究開発法人日本医療研究開発機構<AMED>)

参考:京都大学iPS細胞研究所 CiRA(サイラ)

参考:「身体のはじまりを知る―幹細胞のはなし―」小川亜希子(生物工学会誌 第94巻第5号、2016年)

参考:「Green博士の再生医療」井家益和(生物工学会誌 第92巻第3号、2014年)

参考:「iPS 細胞の可能性と今後の課題」高橋 政代(学術の動向 第14巻第8号、2009年)

参考:「再生医療の現状と問題点」中畑龍俊(炎症・再生 第24巻第2号、2004年)

参考:「『臨床応用』における幹細胞の特徴 比較」厚生労働省

参考:「先天性尿素サイクル異常症でヒトES細胞を用いた治験を実施―ヒトES細胞由来の肝細胞のヒトへの移植は、世界初!―」国立成育医療研究センター 日本医療研究開発機構

 

3. まとめ

いかがでしょうか?

再生医療にはどんなメリットがあるか、具体的にイメージできたかと思います。

では最後に記事の内容をまとめてみましょう。

 

再生医療のメリットは3

・さまざまな疾患の根本的治療が可能

・拒絶反応や副作用がない、または低減される

・患者の身体に負担がかからない(低侵襲治療)

 

体性幹細胞のメリットは、

・安全性が高い

1970年代から行われていて症例が多い

 

◎ES細胞のメリットは、

・ほぼ無限に増殖する

・分化多能性がある

・基礎的研究の成果の蓄積が豊富

 

◎iPS細胞のメリットは、

・ほぼ無限に増殖する

・分化多能性がある

・免疫拒絶反応が起きにくい

・体細胞から作製できるので倫理的な問題がない

 

これらのメリットを踏まえて、あなたが再生医療を受けるかどうか納得いく判断ができるよう願っています。

 

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