長年の薄毛にもう悩まない!薄毛を解決する「毛髪再生」とは

監修者
セルメディカルチームジャパン 編集部

 今の時代、薄毛や抜け毛に悩む成人は男女問わず2人に1人はいるとされています。昔は「薄毛を治せたらノーベル賞」とまでいわれたこともあるほど、毛髪をよみがえらせるのは極めて困難とされてきました。しかし、iPS細胞をはじめとする再生医療によって、その扉は開かれようとしています。「毛髪再生」には、どのような治療方法があるのでしょうかー。薄毛の原因などを探りながら、治療法の実例とさらなる進化を目指す再生医療の実用化に向けた取り組みについて紹介します。

1. 毛髪が生える仕組み、頭皮メカニズムとは

 髪の毛は数年ごとに抜け、新しい髪の毛が生えてきます。これは毛髪が再生する機能を持つ毛包という器官から産み出されているためです。つまり自ら毛包を壊して、新しい毛包を作っているのです。

 この毛髪の再生と脱毛の繰り返しを「毛周期」と呼び、成長期、退行期、休止期の3つのステージに分けられます。成長期では、2~6年かけて毛包内に存在する毛包幹細胞や毛母細胞が分裂・増殖し、毛髪を産生します。退行期では約2週間、毛包を構成する毛母細胞などの一部が細胞死を起こし、毛包自体は小さくなっていきます。休止期は約3カ月、毛包が細胞分裂や細胞死を休止します。このように、毛包は毛周期を通じてその形を変化させながら、毛髪を産生します。

 そもそも髪の毛の本数は産まれた時点で決まっていて、約10万本あります。しかし、年齢を重ねるうちに毛髪の再生機能が低下して、薄毛になるケースがみられます。以前は、中年以降の男性を中心とした悩みでしたが、今は2030代の若い世代でも悩んでいる人がいます。なぜ、薄毛が起きてしまうでしょうか。その原因を調べてみましょう。

2. 薄毛になる原因

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 男性の薄毛で最も多いとされているのが、男性型脱毛症「AGA」です。毛が成長する前に抜け落ちてしまい、細く短い毛だけが残り、薄毛が進行する症状のことです。これはジヒドロテストステロン(DHT)という悪性の男性ホルモンが毛周期を乱すことで、薄毛を進行させてしまいます。体質的にDHTが作られやすかったり、ホルモンの情報を受け取る感度が高かったりする人は、AGAになる可能性が高くなります。

 ストレスによって、薄毛や脱毛が起こることもあります。円形脱毛症がその典型です。ストレスが薄毛を生じさせるメカニズムについては明らかになっていませんが、ストレスによって自律神経が乱れ、頭皮の血流が悪くなったり、代謝がスムーズに行われなくなったりすることが原因の一つと考えられています。

 この他に偏食や睡眠不足などの乱れた生活習慣が、薄毛の原因となることがあります。丈夫な髪の毛が生えるには、タンパク質をはじめとする十分な栄養を取ることが大切です。毛髪は夜眠っている間に成長するので、毎日しっかりと睡眠を取ることも重要です。また、抜け毛が気になるからといって髪を何度も洗ったり、育毛剤の用法用量を守らず使ったりすると、頭皮や毛髪を保護するのに必要な皮脂まで洗い流され、薄毛が進行してしまうことがあります。

 薄毛は男性だけでなく、女性の中にも悩む人がいます。女性の薄毛の原因は、男性同様にストレスや過度のヘアケアなど以外に考えられるのが、加齢によるホルモンバランスの乱れです。女性ホルモンには生殖機能を維持する他にも、毛髪を健康に保つ働きがあります。閉経後は女性ホルモンの分泌が低下するため、髪にハリやコシがなくなったり、脱毛が増えたりするようになります。

3. 薄毛・脱毛治療(AGA)の種類と選び方

 薄毛と脱毛の医療機関での主な治療方法は①発毛剤②投薬③植毛④再生医療に分けられます。この中で、AGAについては投薬による治療が一般的。前立腺肥大症の治療薬として開発された「プロペシア」や高血圧の治療薬として開発された「ミノキシジル」などの薬を服用することで、薄毛を改善したり、毛根の細胞を活性化させたりする作用があると考えられています。

植毛は自身の毛根を薄毛部分に移植するものです。投薬には副作用があり、植毛には頭皮全体の毛髪量は変わらないなどのデメリットがあります。

 最近では再生医療として、自身の血液中に含まれる血小板の成長因子が持つ組織修復能力を利用する、多血小板血漿(けっしょう)「PRP」育毛療法があります。PRPの成分を頭皮に注射する注入治療です。男性にも女性にも安全に用いることのできる治療法といわれ、自分の体にある血小板注射となるため、アレルギー反応も無いので安全性が高く、頭皮への負担も最大限に抑えた再生医療といえます。しかし、どのような治療を選ぶかは、薄毛や脱毛の進行具合などもあり、専門の医師と相談しながら決めるといいでしょう。

 

4. 薄毛治療にかかる費用と治療期間は?

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 薄毛や脱毛の治療にかかる費用や治療期間は、医療機関や個人差によってさまざまです。例えば、投薬のケースでは月単位15千~3万円以上かかり、植毛であれば、植毛する本数で費用は違いますが、50万~120万円以上。PRP療法は50100万円以上とされています。治療期間は投薬で半年以上。植毛は継続治療の必要性はないといわれ、PRP療法は複数回の治療を要するとされています。いずれの治療も保険適用外で自己負担となります。

 

5. 毛髪再生医療のコンセプト

 薄毛や脱毛は、ホルモンやストレス以外にも病気や抗がん剤など薬物治療による副作用が原因となる他、事故やけがによって起きるケースがあります。抜け落ちたり、薄毛になったりした毛髪は元に戻らないとされてきました。しかし、毛髪再生医療は、毛包の成長に関わる細胞を取り出し、体外で増やした上で体内に戻すというものです。毛包内に存在する毛包幹細胞と毛母細胞さえあれば、生える・増える・抜けないーを実現化できる。これが再生医療のコンセプトです。

6. 毛髪再生医療の実用化への取り組み

 PRP療法以外に国内における再生医療の取り組みは進んでいます。

 資生堂と東京医科大学のグループは、毛包の根元にある毛球部毛根鞘(しょう)細胞「DSCC」に、毛包を活性化する作用があることに着目。壮年性脱毛症の成人男女66人を対象に有効性と安全性を確かめる臨床研究を開始しました。

 壮年性脱毛症は、男性に比べて頻度は少ないものの、女性でも見らます。男性では脱毛部位と非脱毛部位の境界が明確であるのに対し、女性の場合は一般に、頭頂部の広範囲にわたって毛がまばらに薄くなります。ヘアスタイルは女性の容姿を印象づける要素であることから、薄毛が女性に与える精神的ダメージは大きいといわれています。一方で、医療機関で処方される飲み薬であるフィナステリドやデュタステリドは、男性でしか有効性と安全性が確認されておらず、女性には使えません。その点、毛髪再生医療は理論的には男女問わず効果があると考えられています。

 現時点で再生医療の中で実用化されているのは、主に2種類しかありません。造血幹細胞など自分の幹細胞を体外で培養して増やし、体内に戻す「幹細胞移入療法」という方法。そして、皮膚や軟骨、筋肉といった「組織」を体外で作成して移植する方法です。心臓や眼球といった「器官(臓器)」を体外で再現して移植する再生医療は、まだ確立されていません。

 こうした中で、幹細胞を使って毛包そのものを体外で再現し、脱毛した部位に移植する治療法の研究も進んでいます。理化学研究所多細胞システム形成研究センターのグループは、マウスを使って毛髪再生の実験を行い、マウスの毛包にある2種類の幹細胞を特殊な技術で凝集させた「再生毛包原基」を作製。それを、皮膚の毛のない部分に移植すると再生毛が生えてくることを確かめました。

 京セラは理化学研究所などと組み、脱毛症を再生医療技術で治療する共同研究に乗り出しています。患者から採取した健康な毛髪の細胞を加工、増殖した後に患者に移植する手法です。

 国内ヘアケア市場は2015年度から増加傾向にあり、矢野経済研究所が公表した2018年度の調査結果によると、事業者売上ベースで約4489億万円(前年度比1.3%増)に上りました。毛髪再生医療の実用化は、薄毛に悩む人々に希望を与えるばかりか、日本医療業界にも大きな影響をもたらすことになるといえるでしょう。

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