手術が怖いなら再生医療を!安心して受けるために知っておきたいこと

監修者
セルメディカルチームジャパン 編集部

出典:Milos - stock.adobe.com

 誰でも手術は怖いですよね。再生医療なら本来不要な手術を避けられるかもしれません。再生医療を受けてみたいけれど、治療はどのような方法で行うのか、後遺障害は出ないのかなど不安に思われている方も多いでしょう。今回はそのような不安を解消していきます。

 

1. 再生医療は安全?リスクはある?

 再生医療は、山中伸弥教授の研究がノーベル賞を受賞して名が知られるようになったiPS細胞や人工的に作られたES細胞などを用いて、失われた組織や臓器を修復・再生する医療です。

 ES細胞は子宮に着床前の受精卵や受精卵が分裂した胚から作り出された細胞で、iPS細胞は血液や皮膚の細胞から作られます。ES細胞やiPS細胞を用いる再生医療では、本人以外の細胞から作られた場合、移植した臓器や組織を異物とみなして攻撃する拒絶反応が起こることがあります。また移植する細胞ががん化するリスクもあり、安全性確保のための研究が現在進行形で行われています。

 ES細胞やiPS細胞を用いた再生医療はまだまだ課題も残っていますが、すでに医療の現場で多くの患者に提供している安全性の高いものがあります。それは多血小板血漿(PRP:Platelet Rich Plasma)療法や脂肪由来幹細胞を用いた再生医療です。多血小板血漿(PRP)療法や脂肪由来幹細胞治療は、自身の血液や脂肪組織を採取して作るため、拒絶反応が起こるリスクが極めて低く、安全性が高いことが特徴です。

 

2. 再生医療は手術をせずに痛みがとれる?

出典:WavebreakmediaMicro – stock.adobe.com

 「再生医療は大掛かりな手術が必要なのでは?」と思われるかもしれませんが、患者への体の負担は少なく行うことができます。

 例えば膝関節の軟骨がすり減って炎症が起こり、骨の変形が進む変形性膝関節症や半月板損傷で膝の痛みがある場合、消炎鎮痛剤の使用やヒアルロン酸を関節内に注入するなどの保存療法が行われます。保存療法は一時的な痛みの軽減を図るに過ぎないため痛みが強く、日常生活に支障をきたすことがあります。その際には損傷した組織の破片を取り除く手術や骨切り術、人工膝関節置換術、傷ついた半月板の縫合などの手術が必要となります。

 以前は痛みの軽減を目的とする治療は、保存療法では消炎鎮痛剤やヒアルロン酸注射しか手段がありませんでしたが、近年では再生医療という選択肢が増えています。自身の血液を採取し、傷の修復を促す作用のある血小板が多く含まれる部分を抽出して膝関節内に注入する多血小板血漿(PRP)療法や脂肪組織から抽出した脂肪由来幹細胞を膝関節の軟骨に投与する再生医療では、炎症を抑え、痛みの軽減が期待できることが分かっています。

 

3. 再生医療で使用する幹細胞の抽出方法

 幹細胞にはES細胞やiPS細胞のようにどのような組織の幹細胞も作り出せる多能性幹細胞と人の体にもともと存在していてその幹細胞が存在する組織や臓器に限局して、消えていく細胞の代わりを作る体性幹細胞があります。

 再生医療で使用する体性幹細胞は、骨髄に存在する骨髄幹細胞が代表的でした。けれども2001年に脂肪組織の中に存在する脂肪由来幹細胞が発見されてからは、骨髄幹細胞よりも数多くの幹細胞を安全に採取できるため、現在では変形性関節症や脊髄損傷の治療などで実用化されています。

 脂肪由来幹細胞の抽出は、まずお腹、お尻、太ももなどから脂肪組織を採取します。そして採取した脂肪組織は、医療機器で遠心分離して脂肪由来幹細胞を抽出し、特殊な環境下で培養・増殖します。脂肪組織の採取時は局所麻酔をかけて皮膚を数センチ切開し、細い管を入れて脂肪吸引します。細胞採取の手術に要する時間は約30分で完了となるため、体の負担は小さいといえます。

 

4. 再生医療の効果はいつ現れる?

 再生医療の効果がいつ現れ、どの程度改善するかという確定したデータはまだありません。症状が改善した人もいれば、治療後もあまり変わらない人もいます。

 変形性膝関節症に脂肪由来幹細胞を関節内に注入した治療報告では、KOOS(膝の症状、こわばり、痛み、日常生活、スポーツ・レクリエーション活動、生活の質に関する質問票)の評価で、痛みや腫れ・膝の動きなどの症状、生活の質は治療後1カ月で改善がみられ、日常生活動作においては6カ月間にわたって徐々に改善していくことが提言されています。

 今後、再生医療の実施件数が増えてこのような治療経過のデータがそろうことによって再生医療の適応や効果、改善がみられ始める期間なども明らかになっていくでしょう。

 

参考:NCBIAssociations of clinical outcomes and MRI findings in intra-articular administration of autologous adipose-derived stem cells for knee osteoarthritis

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7256437/

 

5. 治療後はリハビリが必要なことも

出典:Robert Kneschke – stock.adobe.com

 再生医療では傷ついたり失ったりした組織や臓器の修復を促されますが、修復された臓器や組織がひとりでに学習して生活機能が回復することはありません。生活動作や社会生活の獲得のためにリハビリテーションは必要です。

 具体的にいえば、変形性膝関節症で傷ついた軟骨が再生医療によって修復されても、筋力低下の改善や今後の生活で再発を予防するための効率的な体の動きはリハビリテーションによって獲得していくことが大切です。また脊髄損傷に対しての再生医療で、動かなかった足の動きが若干感じられるようになったとしても、その動きを生活に活かし、社会復帰を果たすためにはリハビリテーションでの機能回復と生活動作の獲得を目指していくことが必要になります。

 脳血管障害やパーキンソン病などの脳の病気でも再生医療が実施されており、再生医療で図られる組織回復を日常生活や社会生活の充実につなげる役割としてリハビリテーションは重要な意味を持っていると考えます。

 

6. 細胞バンクはいざという時に安心な細胞保険

 細胞バンクとは、将来再生医療が必要になった時のために脂肪組織などを採取して幹細胞を抽出し、凍結保存しておく仕組みです。

 再生医療で使用する幹細胞は、他人から提供された細胞を使用するよりも自身の細胞を使う方が拒絶反応は起こりにくく、安全性は高くなります。それに細胞も加齢とともに老化するので、年を取って何かが起こってからではなく、若く健康な状態の時に自身の幹細胞を保存しておけば、より良い状態の幹細胞を使用することができます。

 将来、細胞バンクは通常の医療では治療困難な病気やけがに遭遇した時や、手術歯科治療法がないという時にも再生医療という治療の選択肢が増える可能性があります。細胞バンクは、そういったいざという時の安心を保証する細胞保険なのです。再生医療と共に、細胞バンクの利用も検討してみてはいかがでしょうか。

- コメント -