勃起不全(ED)の新しい治療「乳歯髄幹細胞培養上清液(SGF)」とは

監修者
セルメディカルチームジャパン 編集部

 再生医療は、勃起不全(ED)の根本治療にも効果が期待されています。また糖尿病や動脈硬化症にも、有効性が高いといわれています。

今回は、再生医療で使用されている「乳歯髄幹細胞培養上清液(SGF)」を中心に解説していきます。

 

1. 勃起不全の原因

 

 勃起不全は原因によって器質性、心因性、混合性の3つに分類されます。これまで勃起不全の原因は日常生活での精神的ストレスや、勃起不全で性交がうまくいかなかったトラウマなどの心因性が大半を占めるという認識が一般的でした。しかし、最近になって器質性と心因性の両方に原因がある混合性が多いことがわかっています。

 器質性は、加齢に伴う老化や、病気や外傷で陰茎の血管や神経が障害されることで生じます。糖尿病・高血圧などの生活習慣病や慢性腎臓病、虚血性心疾患があると勃起不全になる確率は高くなります。

 

具体的には以下の要因があげられます。

・加齢

・糖尿病

・肥満・運動不足

・虚血性心血管疾患

・高血圧

・喫煙

・男性ホルモンの一種のテストステロンの低下

・慢性腎臓病・排尿における症状(下部尿路症状)

・神経疾患

・外傷(会陰部の圧迫)・手術(前立腺がん、膀胱がん、直腸がん)

・うつ症状・精神的な問題・ストレス

・薬剤(降圧薬、抗うつ薬、前立腺肥大症治療薬、髄腔内バクロフェン療法、非ステロイド性抗炎症薬)

・睡眠時無呼吸症候群

 

2. 従来の勃起不全治療で注意したいこと

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勃起不全の従来の治療法は、勃起不全治療薬(バイアグラ、レビトラ、シアリス)、バキュームディバイス(陰圧式勃起補助具)、陰茎海綿体注射、陰茎プロステーシス移植手術などがあります。

 勃起不全の治療方法としてよく知られているのは、血流の改善を促す作用のある勃起不全治療薬です。国内で認可されている勃起不全治療薬はバイアグラ、レビトラ、シアリスの3種類があります。これらの薬は服用すると勝手に勃起するわけではなく、性的刺激を受けて起こる勃起を補助するための薬です。

 効果が現れるまでの時間や持続時間は薬の種類によってそれぞれ限定されており、飲酒や食事の影響も受けます。そのため、勃起が必要なタイミングから逆算して薬を服用する必要があり、食事内容や食事時間のタイミングの配慮も必要です。狭心症などの心臓の病気で使用される硝酸薬を服用している場合は血圧が低下するため、使用できません。硝酸薬以外にも、飲み合わせに注意が必要な薬があります。

 副作用は、顔のほてりや頭痛、動悸、目の充血、鼻づまりなどがよくみられます。重篤な副作用の例としては、50歳以上で生活習慣病の人がバイアグラを服用した場合に視力低下や視力喪失が起こることが海外において報告されています。

 勃起不全治療薬以外の治療法としては、陰茎を陰圧にして物理的に勃起させるバキュームディバイス(陰圧式勃起補助具)や陰茎に直接血管を拡げる薬を注射する陰茎海綿体注射などがあります。バキュームディバイス(陰圧式勃起補助具)や陰茎海綿体注射が有効でない場合にはシリコンでできたプロステーシスと呼ばれる専用の器具を陰茎に挿入する手術もあります。

 これらの治療法は性的刺激を受けて自然な勃起を回復させるものではなく、勃起が必要なタイミングで、自分で器具の操作や注射を行い、物理的に勃起状態をつくる方法です。副作用としては陰茎痛がみられます。陰茎海綿体注射では、陰茎の血流が途絶えて陰茎海綿体組織が死滅する持続勃起症が副作用として起こることがあるため注意が必要です。

3. 再生医療は勃起不全の救世主

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 勃起不全の新しい治療法として乳歯歯髄幹細胞培養上清液(SGF)による再生医療が実施されています。従来の勃起不全治療は、勃起が必要なときに物理的な勃起を起こす対処療法に過ぎず、本来の勃起のメカニズムの回復を望める治療ではありませんでした。勃起不全治療薬は服用のタイミングや食事内容によっては効果が現れない場合もあります。しかしSGFによる再生医療は、勃起機能そのものの改善が望める根本的な治療です。

 そもそも勃起は、陰茎の血流量が増加して陰茎海綿体が膨張、そして陰茎の血液がとどまるように静脈に圧迫がかかっている状態です。この陰茎での血流の調整は、陰茎海綿体平滑筋の収縮・弛緩によって行われています。陰茎海綿体平滑筋の収縮・弛緩には、性的刺激の信号を陰茎の血管に伝える一酸化窒素合成酵素(NOS)という物質が関与しています。

 NOSには内皮型、誘導型、神経系があり、内皮細胞から分泌されるNOSは内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)と呼ばれます。eNOSが活性化すると陰茎海綿体平滑筋が弛緩して勃起状態が持続します。加齢や糖尿病、慢性腎不全、外傷による血管障害、虚血性心疾患では、NOSを分泌する内皮細胞の障害やeNOSの放出の低下がみられ、陰茎海綿体平滑筋が弛緩しにくいために勃起不全が起こることが報告されています。

 SGFによる再生医療では、陰茎海綿体の内皮細胞が再生されます。SGFとは乳歯の神経である歯髄から取り出した幹細胞を培養したときに生じる上澄み液で、乳歯歯髄幹細胞から分泌される細胞の活性化・成長・増殖を促すタンパク質が豊富に含まれています。乳歯歯髄幹細胞は特に自己を複製する能力や他の細胞や組織に分化する能力が高く、傷ついた細胞や組織の修復に優れています。SGFを陰茎に注射すると障害された陰茎海綿体の内皮細胞が修復され、勃起状態を維持するeNOSの機能改善が期待できます。

 

4. SGFは生活習慣病治療やアンチエイジングも期待できる

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 SGFは投与すると血管を通って全身を循環しながら、傷ついた血管壁の内皮細胞や体内の組織・神経を自動的に見つけて修復し、体に起こっている炎症を鎮めることがわかっています。その修復機能や炎症を鎮める機能が着目され、糖尿病、腎臓病、肝臓病、関節リウマチ、変形性膝関節症、脳梗塞後遺症、高血圧による血管内皮細胞障害などの生活習慣病の治療にSGFが用いられています。

 SGFを利用した再生医療は、点滴や注射、点鼻などの体に負担の少ない方法で治療を行うことができ、幹細胞を直接移植する治療で心配されるがん化も起こりにくいため、安全で患者にやさしい治療法として注目されています。

 生活習慣病の症状の進行の予防、合併症の発症リスクの軽減の他にも、老化によって衰えた皮膚細胞や全身の細胞のアンチエイジングを図る可能性が期待されています。

 従来の勃起不全治療で悩みがある人はSGFという選択肢もあります。専門医を受診し、症状に合った適切な治療を受けることが大切ですので、一度相談してみてはいかがでしょうか。悩みが緩和されることを願っています。

 

参考:日本泌尿器学会 「ED診療ガイドライン(第3版)」

https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/26_ed_v3.pdf 

参考:『ED 最新治療のすべて』矢島通孝、日本放送出版協会(2001年)

参考:『ED 心と体のメカニズム』白井將文、講談社(2002年)

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