再生医療で若返りって本当?人類を救う革新的医療の今

監修者
セルメディカルチームジャパン 編集部

 近年、注目されている再生医療。「再生」という二文字から「肌が若返る?」「毛髪が生えてくる?」「不治の病が治る?」と美容効果や長寿をイメージする人は多いのではないでしょうか。ただ、メディアや医療関係者の学会で見聞きしている内容を吟味すると、「○○細胞」「○○組織」という医学用語が飛び交い、難解で理解できないという人もいるはずです。そもそも再生医療とは何かー。それをわかりやすく読み解き、革新的医療の最前線に迫っていきます。

1. 再生医療とは?

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 人はけがや病気で体の一部を失い機能しなくなると、それを補うため医療機器や医療器材に頼らざるを得ません。心臓が機能しなくなれば、ペースメーカーか心臓移植をするしかなく、腎臓が機能しなくなれば人工透析を行い、膝関節の軟骨などがすり減り歩けなくなれば人工関節を取り入れます。

 こうしたこれまでの医療を革新的に変えるのが、再生医療です。日本再生医療学会によれば、再生医療とは「機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、細胞を積極的に利用して、その機能の再生をはかるもの」とされています。

 つまり、再生医療とは、薬や人工物で、けがや病気を治療するのではありません。神経や内臓、皮膚などの失われた働きを、人間の体の「再生する力」を用いて機能を回復すること。すなわち体を作っている細胞を利用して、取り戻したり、補ったりする医療のことです。

 例を挙げると、やけどの患者から健康な皮膚を取り除き、その細胞を増やして、やけどした部分に植え付け、元のような皮膚を作る方法などがあります。

 すでにお気づきの方もいるかもしれませんが、これまでに何度も出てきている「細胞」が再生医療の重要なキーワードになります。

2. 60兆個の細胞に「体細胞」と「幹細胞」がある

 私たちの体は実に約60兆個の細胞からできています。もとは、母親のおなかにある受精卵という一つの細胞が始まりです。受精卵がどんどん増殖することによって、胚になり、さらに増殖を繰り返して、皮膚や脳、心臓といった組織や臓器が作られます。このように、細胞がさまざまな組織や臓器に変化することを「分化」と言います。

 一方で、細胞には寿命があります。多くの細胞は分化すると増殖できなくなり、死んでいきます。例えば、肌をこすって垢(あか)が出るのは、皮膚の死んだ細胞がはがれ落ちるからです。しかし、その下にすでに新しい皮膚があるのは、組織の中に新しい細胞を補充する役目をもつ未分化な細胞があるからです。完全に分化し、皮膚や血液のように組織や臓器となった細胞は「体細胞」、これからいろいろな組織や臓器になれる未分化な細胞は「幹細胞」と呼ばれています。

 再生医療では、主に「幹細胞」を利用して、けがや病気で傷ついたり、失ったりした部分に移植して組織の再生を促し、根本的な治癒を目指す「細胞移植治療」が行われています。

3. ノーベル賞のiPS細胞とは

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 現在の再生医療として受けいれられる幹細胞は、大きく3種類あります。もともと私たちの体の中にある「体性幹細胞」と、受精卵から培養して作られる胚性幹細胞「ES細胞」、人工的に作製される人工多能性幹細胞「iPS細胞」です。

 「ES細胞」と「iPS細胞」は、「体性幹細胞」とは違い、さまざまな組織や臓器に分化する能力を持つ万能細胞です。ただ、「ES細胞」は受精卵が胎児になる途中の胚の中にある細胞を採り出して培養し、作製するため、本来赤ちゃんになれる細胞を利用するという倫理的な問題があります。

 それに対して「iPS細胞」は、皮膚や血液など特定の役割を持った成熟した体細胞にいくつかの遺伝子を入れて人工的に未分化な状態に逆戻りさせた幹細胞です。「ES細胞」と同等の能力がある上に、倫理的な問題を解決したことで、2012年には「iPS細胞」を発明した京都大学の山中伸弥教授がノーベル医学生理学賞を受賞しました。培養条件を変えることで神経や心臓、網膜などの細胞を作ることができ、最も注目を集めています。

4. 実用化に向けた取り組み

 実は、すでに再生医療は実現されており、その代表例は骨髄移植です。これは1970年代から世界中で実施されており、これが幹細胞を使った治療の始まりです。それ以前にも、やけどの患者に本人の皮膚細胞を培養してシートのようにして貼るという、今で言う再生医療が行われていたといわれています。近年では、軟骨や角膜上皮の再生医療が行われています。

 しかし、これらの再生医療は複雑な構造を持たない単純な構造の組織ばかりです。今後の大きな課題は、複雑な血管を必要とする、肝臓や膵臓などのさまざまな臓器に関する治療や神経などが実用化の主要なターゲットになっていくことになります。

 そこで、その実用化に向け大きな期待が寄せられているのが、iPS細胞による再生医療です。日本では、再生医療を重点化すべき研究分野として位置づけています。2013年に内閣官房に健康・医療戦略室が設置され、その2年後の4月には国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が設立されました。さらに世界に先駆けて20132014年には再生医療に係わる新たな法制的な枠組みができ、再生医療の実現化を推進するための体制整備が図られています。

 こうした中、これまでにいくつかiPS細胞による国内の臨床研究が報告されています。

 2014年9月に世界で初めてiPS細胞を使った移植手術が明らかになりました。これは理化学研究所と先端医療センター病院(神戸市)のチームが、iPS細胞から作った網膜の細胞を、難病「滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性」を患う兵庫県の70代女性の右目に移植したものです。再生医療の可能性を広げる第一歩として、世界中にニュースが流れました。

 慶応大では、201812月に運動神経が失われ、全身が動かせなくなっていく難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の治療薬の候補を見つけ、治験を始めると発表しました。患者のiPS細胞から神経細胞を作ってさまざまな薬を与える実験で、現在はパーキンソン病に使われている薬が細胞死を抑えることを突き止めたものです。

 この他にも、2019年7月には、大阪大の西田幸二教授(眼科学)のチームが、iPS細胞から作製したシート状の角膜組織を、重度の疾患でほとんど目が見えない40代の女性患者に移植する世界初の臨床研究を実施しました。

 このように再生医療の実用化に向けた研究は加速しています。

5. 再生医療のメリット・デメリットとは

 先に述べたように再生医療の幹細胞には「体性幹細胞」「ES細胞」「iPS細胞」の3種類があります。

 体性幹細胞は、すでに病気やけがの治療に取り入れられているメリットがありますが、さまざまな細胞に分化できない欠点があります。

 ES細胞は、分化や増殖の能力が高い万能型ですが、受精卵を使うため倫理的な問題があります。 

 iPS細胞は、この2つの細胞のデメリットを解決したものといえます。さまざまな細胞に分化でき、倫理的な問題もありません。ただ、iPS細胞は万能細胞であるために、意図しない細胞に分化するリスクや、がん化するリスクも高いという課題があります

6. 臓器の他にしわやたるみ、歯などの美容にも

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 再生医療は臓器の他にも、脳卒中の後遺症改善や男性型脱毛症(AGA)治療など幅広い分野での適用が模索されています。美容業界では、ヒアルロン酸治療では対処できないような目元の細かい小じわやたるみを改善させたり、抜けた歯を再生させたりといった研究が進んでいます。実際に美容整形外科では、自分の体から肌細胞を抽出し培養して、しわやたるみに移植する治療を行っているところもあります。しかし、これはどの医療機関でも実施していいというわけではありません。20141125日から再生医療等の安全性の確保等に関する法律が施行され、再生医療を行う医療機関は「再生医療等委員会」の承認を経て、厚生労働省に届け出を行わないといけません。

7. 各地でEXPOやイベント実施

 iPS細胞による実用化には課題は山積していますが、日本では各地で再生医療のEXPOやシンポジウム、日本再生医療学会の総会などが開かれ、研究者らが最先端の技術を披露しています。2015年に大阪で始まった再生医療EXPOは、2019年からは東京でも開催されるようになりました。2020年2月の第6回再生医療EXPO大阪では、細胞製造のコスト削減、iPS創薬、臓器再生などのテーマで計90講演が行われ、実施内容の規模が拡大されてきています。

 

 人類には欠かすことができなくなった再生医療。官民一体となってどのように実用化され、どこまで進歩してくのかー。世界中でさまざまな挑戦が始まっています。

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